「ピアノのなかに」11/27 バイバイ原発3.8きょうとプレイベント参加者からの応答の詩
ピアノのなかに
ピアノのなかには本が眠っている
言葉を待っているひとたちがいる
言葉たちを起こさなければならないので
あなたは「おはよう」と言う
声は心許なく
言葉たちは起きることがない
本たちが心地よい朝を迎えるように
鍵盤をやさしく叩きはじめる
ピアノのなかで目玉焼きが焼けている
黄身がいい塩梅にかたまるのを待っている
やはり半熟がいいと思う
くつくつと
ぷつぷつと音が鳴っている
にぎやかな朝がやってくる
声はまた搔き消されて。
猫背の背中が揺れている
腕の動きを中心にして
肩から背へと波打つようにして、少しずつ、、、
そこから
涙を流すひとの背中が揺れている
*
言葉にはやはりかたちがない
それは身体のなかから吐きだされるだけで消えていく
たとえ、紙に書かれてあるとしても
それはくしゃくしゃに丸まっていて
文字はかたちを留めていない
聴衆の聞く耳によって
やさしい指づかいによって開かなければならない
鍵盤を叩く指の動きと
包みを拓く指の動きの差異をずっと眺めていた
ピアノのなかに支援物資が眠っている
「おはよう」の挨拶を済ませたら
子どもや大人たちが集まってくる
歌うひとの声はまた掻き消されて
食べながら
おしゃべりしながらつどう
ひとびとの肩が揺れている
*11/27「バイバイ原発きょうとプレイベント」
寺尾紗穂ピアノコンサートにて