武藤類子さんスピーチ(一部概要)全文
武藤類子さん講演「福島原発の責任を誰がとるのか」7つのテーマ
(1) 原発の裁判について
先日脱被ばく子供裁判について現実からほど遠い正しい判断から裁判所が忖度したものでした。しかしここにきていろんな裁判は一進一退の攻防戦ですが、大きな塊となり国。自治体・東電と闘っているように感じています。
東電旧経営陣を告訴した刑事裁判は一昨年3人無罪となりました。「このまま判決が決まることは著しく正義に反する」として控訴しました。今年中には控訴審が始まります。
(2) 福島原発の現状
ベント用配管が途切れている、格納庫の蓋が高レベルの放射能なのに検知しない。検証しなおさなければならないレベルといえます。先日の地震で1・3号機の水位が下がり続けている、3号機の二つの地震計が故障していた。などと問題が起きる。東電の管理に対する悪質さが浮き彫りになりました。原発事故にとっての10年はたったの10年なんですね。
廃炉作業に1日4000人の労働者を投入しているというが実質事故の終息作業ではないのか。過酷な被ばく労働をして死亡者も20人いるということです。
ここにきて見学台を作ったが高いところで毎時100マイクロシーベルトあるところに高校生を含む一般人に見学させる。
またアルプス処理汚染水が124万トンになりました。トリチュウムのほか63核種が除去できずに残留しています。国は海洋放出しようとしています。これには多くの漁連、農林水産、観光業に加えて自治体の7割以上が反対・慎重を訴えていますマスコミが報道するようになり処分しないという方針転換を考えざるを得なくなっています。
(3) 新たな放射性物質の拡散について
福島県に集められた除染土は1400万トンに上ります。中間施設に75%が集まり2045年までに県外に搬出するという法律ができていますが、県外の80%の人はこれを知らないのです。それまでに引き受ける自治体はないと思いますし、私は搬出すべきではないと思っています。
そのためか環境省は汚染土を再利用して減らそうとしていています。再生して拡散しようとしています。現在は飯館村の帰還困難地域で実証作業が行われています。汚染土の上に土をのせて花など食べないものを植え始めました。それが今、直接汚染度にキュウリやカブなど食べられるものを植える実験がされるようになりました。大学生などに紹介し各地に広めようとしています。
併せて木質バイオ発電の問題もあります。県内原発は廃炉なので再生可能エネルギーに力を入れています。数か所に建設されています。バイオは二酸化炭素の削減になるのか疑問視されていますが、放射能汚染された木を燃やすことが問題です。燃やすことで拡散し、残った灰を再生資材として使われることが懸念されます。事故の後にも新たな被ばくの危険性があります。
バイオ発電所は森林除染を変えるとして主要株主に東電と子会社がなり加害者が被災地で電気を売ることに憤りを感じます。
(4) 小児甲状腺がんについて
当時2年に一度行われる18歳以下の検査だけでした。現在までに225人の人にがんやその疑いがあるとされています。検討委員会は多発ではあるが原発との関連は認められないとしています。委員の中には見つけなくてもいいがんを見つけ患者を苦しめているとか学校での検診は強制性があるという理由をあげ過剰診断といい、検査自体を縮小していこうという動きがあります。
学校の検査は希望者だけが受診することになっていますし、必要な施術を行っているだけだということです。県民健康調査以外で見っかった甲状腺がんを数に認めないなどの点も指摘されています。福島県にある「たらちね」による調査では学校での検診希望が80%ありそれも生涯希望する人が50%いました。放射能拡散を踏まえて子どもたちの健康を長期に見守ることを目的にしています。今後も続けるべきだと思います。
(5) 伝承と教育
昨年9月に東日本大震災災害・原子力伝承館ができました。この立地条件は事故が続く原発から4キロで、中間処分施設の隣なのです。東はすぐ海で3・11クラスの地震が来れば津波で水没する恐れがあるそうです。そこに高校生などの修学旅行の誘致をしています。
240万点の資料が集められ170点の資料が公開されています。しかし展示内容を決める有識者会議は非公開で行われました。議事録も公開されましたが一部は黒塗りのままです。開館直後の報道では「事故の実相は展示されていない」「安全神話を住民に刷り込んでいたことが伝わらず、事故の反省が伝わらない」「映像が多く実物の展示が少ない」と言われています。
私も「東電裁判で明らかにされた不作為」や「双葉病院の詳細な資料」などが展示にないと思いました。
スピーディーが公開されなかったことやヨウ素剤が適正に配られなかったことなど事故対応の失敗や原発事故責任の展示がありません。災害の伝承とは起きたことをきちっと検証し反省し次への教訓を導き出すことを使命としていると思います。この3月にこれらの声を受けて変わるとは聞いています。
(6) 原子力勢力の復活
復興化促進イノベーション構想の中で避難指示区域だった市町村に国際研究拠点が作られることになり、今、誘致合戦がされています。大学や研究所・企業などが参画し、除染や廃炉技術などを中心とする研究都市を産・官・学そして住民を巻き込んで作るということです。アメリカのハンフォードをモデルにして作ろうという。ここは長崎の原爆、プルトニュウムの施設です。磐城などの大学生をすでに視察に行かせています。コロンビア川への汚染、廃棄物の地下漏洩などアメリカ一汚染された場所だといわれています。そこに多くの研究機関や企業が集まり大きな街になったためにモデルとして挙げられたと思います。が、近隣の高校リッチランドの校章は今でも「きのこ雲」です。福島はようやく原子力の呪縛から解かれたにもかかわらず
また原子力勢力のもとで事故や放射能の不安の声を封じられていくのではと危惧しています。
(以上概要)
(7) 本当の復興について
福島の原発関連死は2300人に及び、118人が自殺、復興住宅での52人が孤独死しています。鬱やPTSが多くの避難者に見られます。事故前の20倍の基準の帰還政策が間違っていると思います。放射能が高いこと、お店などのインフラがと整わないこと、避難が長くなり避難先での生活が定着したことなどの理由で帰還はもちろん進みません。現在も全体の3割にも満たない。県は当初2020年までにゼロにするとして、始めは引っ越し費用を補助するなどして帰還政策を盛んに行いました。しかし、2017年に大規模な避難解除をするとともに賠償や支援を打ち切り避難者の切り捨てに舵が切られました。
代りに新しい移住者の支援を始めました。復興予算によって避難地域であった12市町村に他地域から移住しそこで就業や起業する人には最大200万円の支給を行うとのことです。一方で避難者の方々はこの10年ご自身の努力によって生活の再建を目指してきましたが、なかには避難先の公営住宅の提供が終了しても新しい住まいを探すことができない方もいます。県はその人たちに2倍の家賃を請求したり、裁判を起こしたりしています。親族の住所を調べたりして暗に圧力をかけるという事件もありました。
事故から10年被害者は事故が無ければあったはずの10年を失い違う10年を生きてきました。事故で失うものは家や仕事だけではなく、お金には換算できない人や地域とのつながり、長く伝えられてきた伝統行事、季節と共に自然と触れ合う楽しみもあります。それらを失うことは生きる尊厳を失うことになります。それがなかなか伝わらないし、損害賠償でも認められない状況です。
国と県はイノベーション構想をうたい新しい事業に莫大な復興予算をつぎこんでいます。そこではまた原発関連企業が集い利権を得ています。産業も変わってしまい今行われている復興とは故郷が元に戻ることではなく知らない人が住む知らない町になっていくのだな~と思います。
ある役場の新庁舎完成のイベントにスタッフが着ていた服の背中に「振り向く暇があったら前にすすめ」。人災である原発事故の被害者に対して、起きたことを忘れ復興、復興と前を向くことだけを強いています。
3月25日にはオリンピックの聖火リレーがJビレッジからスタートする予定です。この場所は東電が7・8号機を認めてもらうために福島に寄付した。事故後に終息作業の拠点として東電に貸し出され充分に除染しないまま県に返されました。指定廃棄物並みの放射性物質を密かに敷地内に保管していたといういわくつきの施設です。
安倍晋三前首相のアンダーコントロールという嘘から始まり復興五輪という嘘を塗り重ねコロナというおまけまでつけられた茶番に「福島はオリンピックどころじゃねえ」といいたいです。
10年行われてきたことは事故の問題を見えなくして幕引き目論見、被害者を切り捨て放射線防護を大きくゆるめ、原子力産業に再び利権を与えその復活を許すことではないかと感じています。
これからの時代は核の問題に加えて気候変動やそれに伴う激甚災害そしてコロナのような病気が世界を襲うかもしれません。若い人たち、子どもたち、未来の世代に向けて何ができるのか原発事故を経験した一人の大人として考えなければなりません。地球に生きる一つの生物として全生命の深化であるこの星を少しでも傷つけずに存続させる努力をしていきましょう。
ゲーリースナイダーの詩「子どもらによせて」
せまりくる峰々に登るとき君に君たちにそして君たちの子どもに寄せる一言を、離れ離れにならずに花々を学び花々の道を装い軽く歩いて行けよ。離れ離れにならずに花々を学び花々の道を装い軽く歩いて行けよ